香港女性釣り師

<熱烈歓迎>

−大爆釣−

(2007年12月17日〜21日)


2007年12月16日彼女は関空からのバスで夕方遅くにたった一人っ切りで徳島へやって来た。
私と家人が共に出迎え、食事を共にした後、事前に予約を入れてあるホテルへ送り届ける。

翌日早朝、彼女を乗せ二人だけで牟岐大島へと車を走らせた。事前の私の釣りの準備にぬかりはない。長年の経験はもう万全だった。
ところが彼女は中国語と英語しかしゃべれない。私は、といえば、阿波弁と片言の英語くらいで、こりゃあもうどうして良いかワカラナイ。

当然ながら道中会話があまり弾まない、沈黙と気恥ずかしさを感じながらも、けれども彼女が感じるであろう居心地の悪さを少しでも解消させようと試みるものの、まあ仕方ない事だ。ふう−!

牟岐港到着は午前5時30分。外の気温は4℃前後で非常に寒い。これから彼女が経験するであろう日本の磯釣りは、まずは寒さと暗闇からのスタートとなった。


帽子は彼女のもの、残念ながらダイワ製
は女性用のサイズがない、との事。

午前6時10分出港。それにしても私の釣りの計画は少々無茶かもしれない。
初心者、女性、それも外国人、けれどもまあせっかくの徳島来県で磯釣りに憧れている様子だったので、とにかくグレのメッカ牟岐大島をどうしても一度経験というか体験して欲しかった、といった私本来の自分勝手な性分が頭をもたげたのだろうか?

今日の彼女との釣りで私の親愛なる友人の岡田さんが一人駆けつけてくれた。
釣り足場の良い場所、トイレのできるある程度のスペースがある場所、さらには荷物の受け渡し等等で初心者女性の面倒をすべて私が見る事に一抹の不安を感じていたためだ。

集まった渡船は13隻、牟岐大島恒例の抽選では何と7番回りを引き当てた。磯上がりは迷わず、“ジョーギ”だ!。
日和は穏やかで風も無い。船着きの足場もすこぶる良い。トイレの場所も何の問題も無い。こんなラッキーな事が、といった巡り合わせに私はまずは一人で感謝していた。

彼女が持参したのは衣類と磯靴のみで(大きなバッグに自身の小物類を持参していたようだが結果的には不必要。)、あとはすべて私が事前に用意しておいた。まずは仕掛けを作り、釣り方の説明から始める。それまでの私は数多くの釣り人の講習会を行ってきたために、まあ手馴れたモノだった。

準備をすべてし終え、いよいよ彼女と並んで竿を出す。
二本の竿は同じ動きをする。全く何の知識も無い日本の磯釣りで最初に初める事は、まずは真似る事からスタートするのだから当然といえば当然だった。

私の指示どおりに粛々と事を進める彼女の動きに無駄はない。動作も極めてスムーズで、二度、三度と注意をすればもうすぐさま修正して私の思惑どおりの釣り方になってゆく。竿の扱いやリールの操作は時間の経過と共にこちらが驚かされるほどに滑らかなっていった。
“ーん?いったいどうして?”、こちらも驚かされるばかりであった。こんなにも従順で、素直で、釣りのセンス抜群で、カンが良くて、それでいて頭の良い釣り人なんぞ今までに出会った事がないほどだった。

マキエを撒く。けれどもエサ盗り一匹いない。水温21℃。サシエはそのまま。????、こりゃあ最悪のパターンが襲ってきた。
それじゃあとばかりにタナを深くすれば時折根掛かりにも見舞われる。けれども、彼女に何と日本初ヒットの魚が出迎えてくれたため、まあ何はともあれ、こりゃ〜嬉しいもんでした。

まあ今日の満潮は12時過ぎだ、慌てることはない。
こんな時合いこそ彼女に磯釣りの基本的な釣り方をアドバイスする格好のゴールデンタイムなんだ、と釣れない時間を言い訳するかのように一人で納得し、彼女への精一杯の対応を行なうしか方法はなかった。そうする内に午後になり、ようやく魚の活性も少し高くなりつつあった。

−と、私に最初のヒット。
すかざず隣の彼女と竿を交換する。一瞬驚いたような仕草の彼女だが、ここは磯の上、ましてや一刻の猶予もままならない状況の中で、その後の彼女は魚とのファイトを楽しむより他ないのだ。(私は時に相手に突然のスリルを味あわせようとする癖があるんですが。)

“う〜ん!魚とのやりとりの最中にシュンリン(彼女の名前)、ノット アングリイ ザ フィッシュ、テンダーネス、テンダーネス、スローリイ、スローリイ、などと英語の単語の僅かしか知らないおっさん(私)が吼えまくる。そんな私の遠吠えに対して、その都度きちんと冷静な対応を行なっているんだから、まあ私の英語もまんざら捨てたもんじゃあないんだ、と何故か嬉しくなってしまうから不思議なもんだ。

まあそれにしても見事なやり取りには正直驚かされてしまった。(女性ならではの優しさは、魚のやり取りには非常にむいているのかもねえ。)見れば35cmほどのサンタ、その後四匹ほどのサンタ襲来の後、とうとう待望のグレが可愛い香港女性に会いに来てくれた。


それも何と実寸で44cm、道糸1.8号、ハリスは1.5号の私の用意したタックルでとにもかくにも一人で取り込んだんだから、ただただ凄い!の一言に尽きる。
さらにはここは通称“グレ釣り大学”とも呼ばれている難関の牟岐大島。ベテランでもなかなかグレと出会える確立は非常に低い場所故に、まあ私にとっても連れてきた甲斐があったというものだ。まずは予期せぬ私にとってのファーストサプライズ。まあ今日はこのくらいで勘弁、勘弁。

そんなこんなでまずは初日の釣りは予想以上の結果となって、驚くほど快調なすべり出しを見せた。

宿泊は宍喰温泉のあるリビエラ宍喰。(このホテルは高級リゾートホテルにも劣らないほど素晴らしいですから一度機会があればいかがでしょう?)

館内レストランでの食事を終えた後に、おっさんとまるで娘みたいな女性の二人が向き合って、ノートとペンを駆使しながらの釣り談義というか釣り講習会というか、それが延々二時間近く。

まあ熱心さと釣りに対する情熱には思わず私も感服してしまう。けれどもこういった会話の時間も二人にとっては非常に貴重な時間となったようで、それは明日以降の彼女の釣りに存分に生かされるようになろうとは、その時には全く予期できなかった事でもあった。


二日目も早朝の出発。まだ暗く寒い中を牟岐に向かって車を走らせた。

港では私の親愛なる友人の林名人(徳島県釣り連盟名人位)と合流後、昨日同様午前6時10分出港。
彼はただただ我々のお世話役としてやって来てくれたのだから本当に頭の下がる想いだった。やはり持つべきは頼りがいのある優しい友だ。

昨日同様磯上がりはまたしても超最高の場所となる4番回りの“ホリモン”だった。足場は最高、トイレも何の問題もない。魚もゴマンといる場所だ。我々にとってもうこれ以上の幸運は望めないほどの感激を味わっている事を、けれども、彼女は当然ながら知る由もない。

さらには今日の海も穏やかで、風も全く無い状態。海の神様やさまざまなこうした巡り合わせに、何故か彼女の持って生まれた強運さえ感じてしまうほどだった。

昨日同様二人で並んで竿を出す。今日のアドバイスは林名人に少しお願いしてあるので、牟岐大島を知り尽くしている彼の存在は心強い。
それにしても彼女の釣りに対する従順さ、素直さ、正確さ、適応力や対応力の素晴らしさには、ただただ我々二人の男が目を見張ってしまうものがあった。

何気ない竿さばきやリールの扱い方にしても、もしかすればもう20年も釣りを行なってきたような印象さえ感じさせるほどだ。
持って生まれた極上の釣りセンスばかりか、さらには飛び切りの頭の良さと初心者特有の疑う事を知らない純朴さ、またさらには釣りに対する情熱の度合いの大きさ、私はそれらすべてを彼女から徐々に、そうして確実に感じ始めていた。

午前中は干底からのスタートだったが、マキエには何と今までに出会ったこともないような大きなカンパチが5〜6匹も足元に居着いて我々を興奮させてくれた。“何故にカンパチ?”、諦めと醒めた私の感情(あんなの食うはずもなければ、食っても取れっこないし、狙いのグレは怯えて釣れやしない。)とは裏腹に、もう彼女は必死の形相で狙っている。驚きの時間は二時間近くも続き、その内にカンパチも彼女との別れを告げるように何処かへ去って行ってしまった。

潮が次第に高くなり始めた頃、私に待望のヒット。

昨日同様すかさず隣の彼女に素早く竿を手渡す。
今日も道糸1.8号、ハリス1.5号のいわばベテラン牟岐仕掛けだ。(けれども誤解の無いように始めに断っておくが、これは決して彼女に対するイジメではないのだ。釣りの感動を味わって貰うための一つの私なりの精一杯の気使い手段なんですから。)

ごらんのような良型、ナイスファイトのサンタではあったが、まあ何と素晴らしいやり取りで、結果見事彼女に釣り上げられてしまった。
その様を目のあたりにして、“これはただ物ではない釣り師だ、と彼女のやり取りの一部始終見ていた男二人が感じ入ったのだが、それはまだまだこの日の序章にしか過ぎなかったとはー。

時合いは徐々にやって来た。

船着き磯際周辺でようやくマキエに魚が群がり始めた。もう私自身が竿を出して魚をヒットさせる役目は完全に終わっていた。ここで私の釣りは、ジ・エンド。“もう彼女一人でも何の問題もない。大丈夫だ!”、それからの私のする事はといえば、彼女がいかにヒットする確立を高めるかを考えながら、マキエを時折撒く程度。後はその時々に少しのアドバイス、もう私の作業はそれだけでよくなった。

アドバイスに対する飲み込みの速さと実践の正確さと忠実さ、もう彼女が魚を自身でコンスタントにヒットさせるのにそうそう時間はかからない。彼女の後方で、それも二人のベテラン釣り師がまさか彼女の釣りをそれ以後に夢中になって観戦させていただく事になろうとはー。

彼女のやり取りは実に落ち着いて無駄のない一連の動きを見せてくれる。

アワセも俊敏でシャープ、やり取りも、足、腰、膝、いや体全体を使っての自在な、まるでしなやかに踊っているようなフレキシブルな動き。
これが一年生釣り師だなんて、ましてや日本の磯釣り超初心者などと誰が感ずるだろうか?さらには彼女はうら若き女性なんだからねえ。私なんぞはもう傍で見ていて呆然自失状態。

“クッソ−!こら〜!日本の磯釣り大好きな男共、いや私の釣友や仲間共、ちっとは彼女を見習わんか〜い!”−などと大きく叫びたい心境になってしまうのは無理もなかった。

彼女の興奮も次から次へのヒットの連続やバラシの連続でもう絶頂近くに達していたが、それにも増して我々ベテラン釣り師の興奮も同じくらいに頂点に達しようとしていた。鼻血が出るなら噴出したいほどだった。

そんな我々を尻目に、さらに彼女は50p近いキツ(イズズミ)やサンタ、35〜40cmのアイゴ、などなどをどんどんどんどん釣り上げてゆく。

“−ん!?、もう信じられな〜い!”、とにかく時間の経過を忘れ、もう見とれて呆然と眺めているしかなかった。

彼女の笑顔がはち切れんばかりに満ち溢れ、我々の笑顔ももう頂点に達してしまいそうなくらいの興奮と感動を彼女から与えられていた。
まさか磯釣りの一番の醍醐味を彼女からいただけるなんて全く想像もできない現実だった。“恐るべき香港ウーマン、いや香港ガールめ!クソッ!!”

ーでそんな中、とうとうグレも食いついた。彼女が一番釣りたかった魚である。

昨日に続き、またまた40cmオーバー、いや実寸で47cmとは全く恐れ入る。阿波の釣り師が長年通っても、二日連続で40cmオーバーのグレを釣り上げるなんて非常に大変な事だ。それも手馴れたベテランの使用するタックルで、だからなおさらの事。

まあ私の指導の優秀さ、などと自惚れなんぞ彼女からは微塵も感じさせて貰えないほどの超優秀な弟子であった。

これはいったいどうなっているんだろう?いくら巡り合わせとはいえ、いくら幸運が重なったとはいえ、“ワッツ・ハップン!?”の心境である。

さらには、釣ったグレとアイゴ、これを刺し身、刺し身、とのたまう。まあ今晩は海陽町の海南にある私の馴染みの大将が経営している高級和風料亭“四季”へでも持ち込んで、食べさせてやろうか、と思って帰路の仕度をしている途中に阿波丸の船頭さん、何とタイミングよく釣りたての大きなアオリイカを持って帰れとおっしゃる。人の情けや気使いや、思いやりや親切は、もう何物にも変えがたい宝物だった。

リビエラ宍喰の温泉後、“四季”へ出向いての夕食。グレ、アイゴ、アオリイカのお刺し身と、アオリイカのニギリ寿司、アイゴのタタキ土佐酢締め、天婦羅各種に地元のハマグリのお吸い物、もうこりゃあ絶品、絶品。彼女の釣った魚を美味しくいただくなんて、まあ今日はいいか。

私のこの日は、まるでミイラ取りがミイラになったような心境で、こんな気持ちをどう表現してよいかわからないほど幸せな一日となってしまった。それもすべては彼女の持つオーラから始まったのかもしれない。

ホテルへ帰り明日の釣りの段取りを済ませ、それぞれの部屋へ戻ったものの、彼女の今日一日の笑顔を想い出すたびに興奮状態で寝られなくなり、とうとう一睡もできない状態で朝を向かえてしまった。−というのは全くの嘘だが、まあ幸せな気分でベッドに潜り込み、しばらくは叫びたいほどの幸せを感じながら、それでもいつしか熟睡状態になってしまったようである。


三日目はゆっくりとした朝食を済ませ、午前8時30分ホテル出発。

別に私がしんどい訳じゃあない、別に彼女が疲れている訳でもない。(いや、むしろ彼女はますます元気になってゆく。)
満潮は午後二時前後、といった潮回りからすれば早朝からの釣りは効率が悪い。釣りなんて時合いを効率よく釣る遊びなんだからねえ。

また今日の場所は日和佐磯と決めていたために、渡船時間を気にしなくても大丈夫なばかりか、安全で大きい磯もふんだんにある。最初の二日間から比べれば、初めて非常に気楽にエスコートできそうだが、果たしてこの一日に、またまた彼女はいったいどんなドラマを作ってくれるんだろうか?

この日も初日にお付き合いしていただいた岡田さんとの同行で、事前にチヌ狙いの磯へ、といった事をお願いしてあった。(グレはもう充分でしょう!?)まあこの時期のチヌは狙ってもなかなか釣れるもんじゃあない、けれども徳島探訪、磯釣りあれこれ、ーといったへんてこな理由はともかくも、まあこれも良しとしていただこう。

最初の釣り座、穏やか過ぎてどうも、“こりゃあーダメそうだ!”。(まあ最初は磯遊び、磯遊び。)
隣では岡田さんが活きアジの泳がせ釣りでイカ狙い。彼女も興味深々で眺めているものの、けれども香港での彼女、船からのジギングやイカのエギングには相当夢中になって狂っているそうな。ーで、早速に釣り上げたばかりのアオリイカ、それを見るやいなや(岡田さんにきちんと断りを入れた後の)すぐさま〆る彼女手際良さにはもう感嘆、感嘆。

ーなどと呑気な時間も徐々に進み、彼女の釣りは船着きへ移動した直後からオセンやキタマクラのヒットを皮切りに、徐々にスタートし始めた。

ーん?よくよく考えてみれば、私はこの三日間というもの彼女に魚を釣らせる事ばかりでまだ自身が全く釣り上げていない。最良ポイントは彼女に任せるにしても、“よーし、別の場所でいっちょ大チヌでも釣ったろかい!阿波の釣り師の面目躍如じゃー!”、−などと少し気合いを入れようとしていた途端に、“ケンジさ〜ん!”。

出鼻を挫かれるように振り返れば、またまた竿を曲げてやがる。見れば、“ありゃー、30p近いグレ”。こりゃー呑気に釣りなんぞしている場合でないぞォー、写真、写真。

ニコニコ顔がまたまた復活だった。一段落して自分の釣り座に戻り、さあこれから、といった時にもまたまた変な予感(?)に引っ張られるように振り返れば、“あれれ〜!またまた結構な引きを楽しんでいるじゃあないの”。

またまたタモを片手に延々と磯歩き(といっても5歩ほどだがー)をさせられるハメに。

強い引きを傍で眺めながらもタモを構えた私は思わず、“シュンリン、ナイス ファイト!”、と昨日来のワンパターン語彙を繰り返す。
しかしてその正体は、ごらんのような、あっと驚く、“タカノハダイ”。

狙って釣れないタカノハダイ、滅多に釣れないタカノハダイ、釣れても嫌われるタカノハダイ、こう三拍子揃った魚も珍しい。
我々日本の磯釣り師にとっては、別名猫またぎ、などといって軽蔑に値する(?)ような魚だが、けれども香港ではなんと超高級魚、超高級魚というくらいだから大金持ちしか食べられないような非常に高価な魚なんである。

今年6月の香港で夕食に誘われた折、彼女のエスコートで連れていって貰った海鮮市場の料理屋さんの水槽に、“コレ”、が泳いでいた。
そこで、彼女はとにかく、“ケンジはダイワのVIP(これは誇張した作り話)だから、一番値の高いこの魚を一緒に食べよう!”、と言い張る。
“サンキュウ、サンキュウ、ノーサンキュウ!”、と気持ちだけは大切にいただいたが、魚を食するのだけは丁重にお断りをさせていただき、その他の魚で大層ご馳走になってしまった。

そんな私と彼女との間にあった不思議な縁の、あの魚が今彼女との奇跡(?)の出会いを、それもこの日本で果たしたのだ。
勿論彼女にとっては極上、最高級の魚である。グレやアイゴ、チヌなんかよりも、いやいやそんなのは問題にも比較にもならないほどにー。

彼女のそんな嬉しさや感動は、残念ながら私以外の皆さんには全く伝わらないであろうが、“アイム ハッピー!、アイム ハッピー!”、とまるで磯を壊さんばかりの飛び跳ねようと、まるで磯に笑顔を落とさんばかりの、それら彼女の天真爛漫な様子を目の当たりにしただけでも、“アイム ハッピー!Too!”といった心境になってしまうから不思議なものだった。

タカノハダイが釣れれば、ご存知だろうが状況としては最悪の潮である。以後は魚との出会いを断たれたようなものだ。
“オー マイ ゴッド!”、である。けれども彼女はそんな事を知る由もない。こちらからも説明は難しいので省略しておいたが、岡田さんと私は互いに顔を見つめ、もうお互い絶望的な気分であった。

男二人が沈んで女性一人だけがピンピン浮き上がる。知らぬが仏、とはよく言ったもんだ。
ーと、またまたヒット、またヒット!−ん!?−ん!?−であった。どうやらこの娘、今日もダタ者ではないようだ。

その後、30cmほどのアイゴに小グレ、などなどと、その後もコンスタントに平然と釣ってしまう。それまでの磯釣りの常識というのは、いったいこの日は何処へ雲隠れしてしまったんだろう? “アイム アンビリーバブル!、だ!”

県南の磯にある日突然、釣りの女神が舞い降りた、けれどもやがて、彼女はまるでかぐや姫のように去ってしまう時がやって来た。

納竿の午後4時までの時間を、それも一秒を惜しんで頑張った彼女、けれどもとうとうこの日の日和佐での釣りも、“ジ エンド”、となった。
やはり徳島の海も魚も、美しい女性には格別に優しいのかもねえ。(わしらオッサンも十分優しいと思うんだがー。)


四日目は、この時期はもうシーズンオフ(?)となった鳴門の堤防波止。

彼女との最終日の釣りは、難易度Aクラス(?)の、それももう水温も14.5℃となってしまった鳴門の波止へ出かける事になった。

本来なら、まずは波止釣り、次に少し穏やかな磯、そうしてその次に荒磯へ、といった順番なんだろうが、そんな事を全く無視して、まるでその反対の手順を行なった今回の私の釣りエスコート。まあそんな事は重々承知はしているんだが、とにかく今回の手順が、初心者にとっては一番手っ取り早く魚と出会える確立が高くなる順番だ、と考えていたからに他ならない。

ただし、一番のポイントは、“誰に連れて行って貰うか”、二番目には、日和の安定、といった事が非常に重要な要素となってくるがー。

磯の、それも荒磯での釣りは、まずは上がる磯の選択(一番はこれに尽きる)、次には上がった磯での狙いポイント、次には時合いとその時々の魚の就餌状態に合わせた対応、この三点をきちんと行なえる釣り師と同行するなら、初心者でも魚と出会える確立はウンと高まる。(当然ながら、シーズン最盛期、日和安定、といった重要な要素が重なっていれば、ですが、、、。)

魚釣りは変化を捉えてタイミングよく釣る遊びだ。釣りにとっての変化は大きなチャンスであり、変化の少ない釣り場ではその分チャンスも少なくなる。荒磯はご承知のように変化、変化の連続で、リスクも大きいが、その分チャンスも多い。
ところが、潮の動きにめりはりの少ない波止などの釣りは、通い続けて慣れていなければ、正直いって難しい。

まあどちらも難しい状況ではとことん難しく、簡単な状況ではとことん簡単な場合だってあるんだけれどもね。

そんなごちゃごちゃした事はともかくも、釣り好き人間は波止であろうが磯であろうが、魚のいる海で釣りをしているだけでも楽しいもんだ。
それまでの輝ける磯ビーナスだった彼女、今日の波止釣りにはいったいどんな印象を持って貰えるんだろうか?

室漁港の波止到着は午前10時過ぎ。
南向きの波止であるために、寒さが大の苦手な彼女にとってもどうやら心配はなさそうだ。あーあ、やれやれ!

マキエを撒けば、オセンがのらりくらりと集まってくる。活性は非常に低いものの、“どうやらまだなんとかいけそうだ!”。
一昨日までの彼女の驚くような快進撃に、けれども、“ライト フィッシング ツゥデイ、OK?”、と小さい魚しか釣れないような必死の言い訳をする私は、もう彼女の僕(しもべ)か手下みたいなもんだが、まあ魚の大きさはともかくも、今日もいろんな日本の釣りを楽しんで、いや今日だけは悔しがって貰いましょうかねえ。(エサ盗り集団に襲われて、まあ悔しがる事を想定しております、イッヒッ、ヒッ、ヒッー!)

“ティーチ ミー”、とおっしゃれば、待ってましたと言わんばかりに喜び勇んだこのおっさんは、百聞は一見にしかず、で二度三度と釣りの手順を実践する。言葉なんぞ通じなくとも、英語なんぞしゃべれなくても、きわめてスムーズな釣りの意思疎通はもうバッチリである。

ーで、予行演習も終了し釣り始めた途端の彼女、あの釣り難いオセンを、まずは一匹いとも簡単に仕留めてしまった。
“あらら!”、であった。“いったいどういう娘なんだろう?この娘は?”、といったこちらの驚きも束の間、またまた一匹、また一匹。
魚を針に乗せる技術はどうやら天性のモノがあるようだ。さらにはタナゴ、小グレ、小メバルとまあ不思議なくらいに魚が彼女に会いに来る。

“波止釣りは難しい釣りなんやぞォー、シュンリン!舐めたり調子に乗ったりしたらアカンぞ−!”、などといった言葉を用意していたのに、そんな恐ろしい言葉はとても言わせて貰えなくなったこのオッサン。悔しいというか、もう呆れてモノが言えない心境だが、けれどもやはり嬉しいもんだった。

小メバルを持った彼女の表情なんぞ、まるで、イッヒッ、ヒッ、ヒッー!、と私に迫って来るようだ。
私の密かな、イッヒッ、ヒッ、ヒッー!、といった思惑が、逆に彼女からの私に対するメッツセージになってしまうとは!?クッソォー!

難易度Aクラス(?)、けれども彼女にそんなのはまったく関係なかったようだ。
途中にどーんと当たったサヨリなどは、“何でこんなところにこんな大きな奴が?”、の心境で鳴門を知り尽くしているこのオッサンを驚かせてくれるではないか。

ーと突然、チヌ、チヌ、チヌ、と叫びを上げる。彼女のマキエに食い上がってきたのは紛れも無く一匹のまだ黒い縞模様が少し確認できるチヌだった。いやそればかりか、さらにはなんとこの鳴門では今までお目にかかったことのない30pほどのシマアジ(メッキアジでは決してない。)が海面近くにまで浮上。そうしてそいつはフラフラと一時間近くも彼女のマキエに戯れていたんだから、もうどう説明していいやら解らない非現実的な出来事を目の当たりにしてしまった。

非現実的な出来事といえば、こんな事もあった。
牟岐漁港の船着き場で、突然ウナギ、ウナギ、と彼女が叫んでいる。
“こんなところにウナギなんぞ居る訳ない。”、−と釣りを終えた7〜8人の釣り人(私も含めて)や阿波丸の船長も彼女の戯言としてまったく相手にせずに聞き流していた。香港女性が、それも日本語で、突然ウナギ、ウナギ、なんだからまあ何をか言わんや、である。
私が気になって澄んだ海面を覗き込む。目測水深一メートル、“ありゃー!ほんまにウナギだ”、それも60p程度の美味しそうな。

彼女が余ったオキアミを一つまみ撒いたエサに、ウナギは何の警戒もなく出てきたようだ。そこにはチヌも何匹か集まっていた。
辺りの皆さんもすぐさま驚いたように確認し、まあ納得、納得、“参りました!”、の一言だった。

彼女の魚を寄せてしまう不思議なオーラ、こりゃあいったい何なんだろう?
釣りはドラマの連続だ!、とこれまで普通の釣り人以上に数多くの経験や場数を踏んできたはずのこの私でさえ、今回の彼女との釣りのすべての巡り合わせが、偶然にしては余りにも説明できないような現実を目のあたりにさせられた4日間であった。

また会おう、どうしてもまた一緒に釣りに行こう、来なければ私が香港まで釣りに出かけてゆくぞォー、そんな気持ちにさせてくれた彼女に、私自身はどうやら確実に、最後の最後になっても、ものの見事に彼女に釣られてしまったようである。
親愛なる香港ガール!、さらには、恐るべし、香港ガールめ!


−久し振りの釣りレポート、それも今回は長編となりました。−
最後までお付き合いいただき、どうもありがとうございました。それではまたー。