尾長釣りの魅力について


グレ釣りシーズンは冬?、という定説は実は大きな間違いです。

その事に気が付いたのは、グレ釣りを覚えて十年以上が経過し、その間に尾長グレと出会い、さらにはその尾長グレを釣り続けてきた結果として、だったのです。

グレ釣り、いや "フカセ釣り発祥の地、阿波の徳島" で釣りを覚え、いつしか波止のチヌから磯のグレを夢中になって追いかけ始めてもう二十数年、本当に月日の経つのは早いものだと感じます。

釣り始めの頃からの十数年間は、春はアメゴやハエ、さらにはチヌから始まり、夏はイサギやアユ、秋から冬にかけてはグレを追いかける、という自分自身の一年間の釣りサイクルが続いていました。

四季折々の釣りを、四季折々の景色の中で楽しむ、という今まで自分に慣れ親しんできたパターンに変化が生じたのは、尾長グレという魚の存在を知り、何年か経った後の、その魚に夢中になり始めてからの事でした。


尾長グレとの最初の出逢いがいつの頃だったのかははっきりと覚えていませんが、四国西南部へ出かけ始めるようになってしばらく経った頃の、十五年ほど前のある春先の事でした。

場所は高知県の宿毛湾にある泊浦磯での出来事です。
ハリス1.5号の仕掛けでそれまで難なく釣れていた40cm前後のグレの中で、時折それまでのグレとは全く違った非常に強い引きをするグレと出会ってしまったのです。

仕掛けを入れるたびにもう入れ食い状態になるのですが、三匹掛けても取れるのはせいぜい一匹とか二匹。
―ん、??? それまでそんなにバラしたことのなかった私にとって、非常にショックな出来事が起こったのです。

当時の釣れるグレは、最近ではあまり見かけられなくなった体高のある43cm前後の茶色っぽい尾長グレばかりでした。

バラしたことも大きな想い出の一つなのですが、それよりも何よりも、その時の針掛かりした瞬間からのそれまでのグレからは味わったことのなかったような凄い引きの強い力とそのスピード、それがまずは何よりも印象的だったのです。

今になって想えば、私にとっての尾長グレとの鮮烈な出逢いの最初の一場面だったのかもしれません。

その頃、四国西南部釣行のかたわらに "釣りサンデーの小西さん" の影響を受けて、私にとっての男女群島通いがスタートしました。

当時の男女群島は大きい尾長グレの宝庫。
茶色のアイゴみたいな(初めての私にはそう見えたのです。)大きな尾長グレ(当時は茶グレと呼んでいた。)が磯際近くを悠々と泳いでいる光景をよく目にしたものでした。

狙いはほとんどの皆さんが今なお狙って出かけている、 "夢の一匹" の大きな尾長グレでした。

当時はグレなどは入れ食い状態。
口太グレでもそのほとんどが45cm前後で時には50cmオーバーも。そんなグレを釣っていて、時折いきなりそれまでとは違った強烈な引きが襲ってきます。

いくら大きい口太グレでもその引きとそのスピード、とてもじゃないが尾長グレのそれとは比べ物になりません。

その大きさの違いもさる事ながら、掛かった瞬間の竿を絞り込むようなその馬力には糸鳴りがするほどで、同じグレという名で呼ばれていてもそれは全く別物でした。

尾長グレのその釣り味の醍醐味には、その一匹一匹のすべてに感動を覚えたものでした。


―で、尾長グレを狙い始めて、釣行する釣り場も年と共に次第にエスカレートしてゆきます。

東は伊豆諸島から西は南西諸島までと、おおよそ尾長グレの釣れる可能性のある釣り場へは、ほとんど出かけてゆきました。

それほどまでに夢中になって追っかけ回している尾長グレ釣りのその魅力、それはまずは一言で言えば、その引きの強さとそのスピードの速さ、に他ならないんじゃないかと思っています。

余談になるかもしれませんが、十七〜八年近く前の磯では一時的に、ヒラマサブームで賑わった事がありました。
それまでグレ一辺倒だった人(私をも含めて)のそのほとんどが急遽ヒラマサに狂っていた光景、あれはいったい何だったんでしょう?

残念ながらヒラマサの回遊がなくなり、ブームも一時の夢と化してしまったのですが。やはり釣り人は馬力があり、その引きがケタはずれに強く、そうしてスピードのある大きな魚、―と同時に食べても美味しい魚に対しては、理屈なしに憧れたり立ち向かってゆこうという習性(?)を持っているのかもしれませんが、、、。


またまた余談になるかもしれませんが、平成4年の秋の出来事でした。

大きな尾長グレに憧れて、一匹の大きな尾長グレを狙って、それまで男女群島へ二十回ほど通い、一番大きかった私にとっての自慢の尾長グレは、重量が3.86s。

俗に言われる60cmオーバー、3s前後はまあそこそこには釣っていたのですが、何故か4sを超えるグレに出逢う事ができないままでいました。当然ながら目指していたのは4sオーバーでした。

ところがその後、甑島で突然に想いもかけない大きな尾長グレと出逢ってしまったのです。

あれほど憧れていた尾長グレが、もう朝から磯のまわりを星の数ほど無数に泳いでいたのです。

釣れるグレは何故かすべて尾長グレ。
それも小さいものでも50cmオーバーなのですが、時折その倍もあるような巨大な尾長グレが、信じられない事に水面近くまで姿を現すのです。

場所は上甑西海岸の "平瀬" 。
もう夢中になってマキエを拾っている尾長グレと、それを夢中になって狙っている自分がいました。

もうこちらとしては千載一遇のチャンス。
−が、太いハリスには全く見向きもしません。いくら辛抱強く仕掛けを打ち返しても、サシエはそのまま残り、けれどもマキエにはこちらが驚くほどに活発に群がっているのです。

ハリスを細くした2号ではいきなりプッツン。
―で全く勝負になりません。

再びあれほど見向きもされなかった3号ハリスで粘り、納竿寸前に運良く4.25sの尾長グレと出逢えたのは、まったくもって運が良かった、としか言いようのない出来事が起こってしまったのです。

尾長釣りのその醍醐味と言っていいのかその感動と言っていいのかわかりませんが、こちらがまったく想像も、予測も、予期もできない状況の中で、まったく釣り人の計算以上の何が起こるかわからないところが、とにかく尾長釣りの持つもう一つの大きな魅力でもあったのです。


尾長グレの持つその魅力を本当にようやく理解できるようになったのは、皮肉にもアユの友釣りのシーズンでした。

それまでの尾長釣りは、寒グレシーズンに磯や潮の選択で釣る程度、あるいは専門に狙うのなら秋のまだ水温の高い時期か乗っ込みの春先だ、などと自分なりに漠然と考えていました。

ところが5年程前のアユの友釣りが始まった6月初旬の出来事です。

何気なしにふと愛媛県の中泊磯へ出かけたのが最初のきっかけでした。
それまで通い詰めていた中泊に、6月に出かけるなんて始めての経験だったのです。
期待もせず、磯釣りのそれもグレ釣り一本の友人に誘われるままに出かけた釣行だったのですが、早朝からバタバタと当たってきます。

そのひったくるような強いアタリばかりか、それまで釣った尾長グレよりも数段引きやそのスピードが勝っているのです。

それまでそんなアタリは大きな尾長グレからしか味わったことのないような感覚だったのです。たかだか45cm前後の尾長がこんなにも強いとは想ってもみませんでした。

上がった磯は本流が勢いよく力強く流れ抜けてゆく "千畳"。
確かその日は十匹前後の釣果だったと思うのですが、バラシたのも十匹前後。
なかなか掛けた魚を全部は取り込めません。

時には向こう合わせの針ハズレ、ある時には活発な食いのためか飲まれたり、口やエラでプッツンと切られたり、またまたある時はシモリの根ズレなどなどで、トラブル続出です。それまでの尾長釣りとは少し勝手が違っていました。

とにかくいくら引きが強くても、こちらのミスでバラせば発憤するものです。
切られれば憤慨するものです。
力負けすればファイトが湧いてくるものです。

もうバラすほどに悔しい想いよりも不思議と興奮と感動が、何故か自分自身の中からメラメラと沸き上がってきたのを今でもはっきりと覚えています。

その反面、"なめられてたまるか。"の心境にもなってくるのですがー。けれどこれこそが、尾長グレの持つもう一つの大きな魅力だったのかもしれません。


ところで、持ち帰った魚を料理する際に一つ驚いた事がありました。

食べたエサの様子を知ろうと丁寧に胃袋の中を観察しようと開いたそのお腹の中の油の多い事多い事。
まるで寒グレそのものなのです。いったいこれはどうした事なんでしょう?

食べても非常に美味しいとはまたまた驚きでした。

その後毎週通い続けて7月の下旬に釣った50cmオーバーの尾長グレが一番油が乗っていたのですから、驚きです。

グレの旬は何も冬だけではなかったのです。

尾長グレの旬は口太グレとは正反対で、ヒラマサとブリの関係のように、ヒラマサの旬は夏で、ブリの旬は冬。

もしかすれば同じようなグレでありながら尾長と口太もそんな相関関係があるのかもしれませんねえ。

―と同時に、引きの強さはブリのそれよりも断然ヒラマサ。
口太よりも断然尾長が強いのも何故だかよく似ています。夏が旬の魚はもしかしてタフなファイターなのかもしれませんがー。


以来次回の釣行ではそれまでのハリスを一ランク上げて、2.5号で臨みます。

それでもダメなら時には3号。
2号や1.7号の細ハリスで勝負する醍醐味も捨て難いのですが、これはケースバイケースの選択を迫られます。

何故なら尾長は口太よりも非常に潮の動きに敏感なばかりか、またサシエの不自然な流れ具合に対しても非常に神経質な一面を持っているからです。

まずはサシエを尾長に食って貰う努力から尾長釣りのゲームはスタートします。

潮が合わなければ口太以上に本当にウンともスンともいってくれません。

全くアタリのない時間は非常に長いのです。

アタリがあっても全部取り込めるかどうかも不安です。

さらには夏場の尾長は寄せても寄せても全く力が弱らないのですから困ったものです。
それらのすべてがまた口太狙いとは違った面白さでもあるのですがー。

バラしてもバラしても、とにかく尾長との勝負にこれという妙案はありません。

―が、痛い目に遭って、悔しい目を幾度となく繰り返した後に、とにかく魚を怒らせないようにする事の大切さを痛感させられたのが、尾長から教えられた唯一の大きな収穫だったような気がしています。

それほどに尾長は手強い魚なのですから。

梅雨のうっとうしい時期でも、夏の強い日差しが照りつけようとも、そんな事は尾長グレにとってはおかまいなし。

とにかく尾長との勝負はこれからがベストシーズンなのです。尾長の旬は夏なのです。

水温が25度前後になる7月初旬にはもうそれこそ尾長グレは群れになって釣り人からの挑みを待ちながら我が物顔で泳いでいるに違いないのですから。

最後にもう一度、グレ釣りシーズンは冬?、という定説は、尾長グレに関しては、実は大きな間違いだったのです。


注)
<この原稿は、5月下旬に発刊される、ある磯釣り専門誌に掲載される予定の内容を、一足お先に公開しました。>