高知県野根川のアユの友釣り '99/6/2



待ちに待った六月は、多くの河川でアユ釣りが解禁となります。
徳島県でも、一部の山合いなどの河川を除き、多くの川は、快晴の日和に恵まれた1日に無事解禁日を向かえました。

解禁日のラッシュと喧騒を避けての、2日、私にとっては本当に久し振りの、高知県の野根川への釣行です。

アユの友釣りのその面白さを覚えてもう早二十年近く、その間には、随分といろんな河川へ、足繁く通ったものでした。
けれどもここ5年ほどは、それまでと比べたら極端なくらいに、アユが追わない、釣れない、ーといった状況で、急にアユ釣りファンが激減したのをご存知の方も多い事と思います。私も正直いって、友釣りの魅力をあまり感じずに過ごしていました。

やはり釣りは釣れなければ、そうして楽しくなければ。この当たり前の事実が、ここ数年間のアユ釣り人口の凋落を象徴しているようでした。ーが、さてさて、今年はいったいどうなる事でしょう?

6月2日、前日の解禁日にはもうゴッタ返すほどの賑わいを見せていた、という野根川下流の川沿いのオトリ屋さんへ到着したのは、午前八時過ぎでした。

ゆっくりと出かけて、オトリ屋さんで前日の情報を仕入れるのも、釣りのまずは基本の一つなのです。

「とにかく昨日は多かった。けれどもそんな中で、平均すれば、20匹前後の釣果が上がった。」 、との事なので、当然ながら、少し嬉しくなってしないます。

同行は、“アユ戦士”、と異名を取る、岡田高男さんともう一人は高田さん昨日60匹も釣ったという岡田さんは、二日連続の釣行です。

下流から、ゆっくりと川の状況を眺めながらのドライブは、これからの釣りに嫌が応でも期待が高まります。

日は前日の喧騒が嘘のように、川はまるでガラ空き状態
ゆっくりと、そうして思ったポイントで、アユ釣りが存分に楽しめそうです。

午前九時前に、いよいよ入川です。場所は、前日に岡田さんが沢山釣ったという、徳島県側(野根川の上流は徳島県。)の船津周辺。
まずは岡田さんが持参した、“箱メガネ”、で川の中を覗いてみました。するとー、いるわいるわ、もうアユの姿は瀬の落ち込みにドッサリと見えるではありませんか。もうこの事実だけでも嬉しくなってしまうのは、釣り人(私)の悲しい性(?)なのかもしれませんが。

急いで身支度を整えて、少し上流のなだらかに続く瀬で、オトリを泳がせます。

ここ数年はアユの習性が変わったのか、以前のような激しい “追い” があまり味わえません。
縄張りを捨てたようなアユが増えてきたのかもしれませんし、アユの世界でも平和になって、そうそう闘争心剥き出しで突っかってこなくなった、のかもしれません。
けれどもこれは友釣りを行なう釣り人にとっては、実は非常に寂しい事なのですがー。

前もって岡田さんから、受験ではありませんが、今年のアユの友釣りの “傾向と対策” を聞いていたために、オトリはあまり自由に泳がせず、をモットーに釣りを組み立てます。

瀬肩の少し流れの緩やかな場所で止めておいたところを、まずはいきなりに “ガツン” と一匹目
オトリを泳がせ始めて、ものの一分くらいしか経っていないのに、です。その後も二匹目、三匹目、−と僅か10分ほどで連続ヒット。これはもしかして、往年のアユ釣りの再来か、と思わせるような出来事でした。

四匹目は、痛恨のセットバラシ。(ニ匹の野アユを放流する事。)磯のグレ釣りでは絶対に考えられない事なのですが、アユの友釣りでは、たまに生じる出来事なのです。<同じ仕掛けを面倒がって変えずに数年間使い続けていたので、これは全面的に私のミスなのですが・・・。> ーで順調なら、四匹確保したはずの野アユが、まだ二匹です。友釣りには、マイナスの釣果もあるのです。

けれども元気な野アユが、引き船にはまだ二匹。それにまだ釣り始めて十数分、気持ちを切り換えて再度望みます。
それからの五〜六匹は、往年のような強いアタリは全くないものの、けれども、ものの一時間もかからないほどでした。


スタートは絶好調でした。

友釣りは、“一に場所”“二にオトリ”“三に腕”と言われているように、場所、オトリについては全く問題ありません。腕もそこそこ(?)だ、と思っていましたが、その後は、全くといっていいくらいに掛からないのです。ーん、ん、ん!、おかしいのです。

引いても泳がせても、止めても、とにかく元気に泳ぐオトリとは対照的に、私の方が何故か先に元気がなくなってしまうのは、やはり野アユの掛かるパターンそのものが変わってしまった、という事に他ならないのですから。

元気なオトリさえ確保していれば、従来の友釣りはそうそう苦労なく野アユを連れて来てくれたものでした。
けれども現状の友釣りでは、引かず泳がせず止めの釣り優先で、同じ場所を何度も何度も攻めたり、またある時にはじっと我慢を続けなければ掛かってくれないのですから。

その後は、ポツポツとしか掛からず、本当に苦労させられました。

友釣りの、野アユの掛かるパターンは、ここ数年で随分と変化したようです。

少し下流の、瀬の落ち込みで丹念に心棒強く釣っていた高田さんと岡田さん、両名共にコンスタントに釣っています。
少し上流で釣っていた私には、二人が心底から楽しんで釣っている様子が手に取るように伝わってきます。

気心の知れた仲間のそんな釣りを眺めていると、たまにはのんびりとした気分になって、ゆっくりと釣る釣りもいいもんだなあ、という実感が、どこからか湧いてくるから不思議です。
以前のように、ただガツガツと釣果だけを求め、周囲の人よりも沢山のアユを釣ろうと必死になってウロウロしていた自分から、いつしか少しだけ “変身” したのかもしれませんが・・・。

とにかく、空気は澄み渡り、清らかな清流の音に包まれ、気分をのんびりとできるのが、アユ釣りの持つ、もう一つの魅力なのでしょう。


昨日と今日の連続釣行 岡田さん、さすがにこちらの要望に応えてきちんとアユを掛けてくれます。
少しプレッシャーを与えるべく、デジカメ片手にしばらくの間彼の横へ貼り付いたのですが、それからの彼の掛けるのの早い事早い事。やはり噂どうりの “アユ釣り戦士” だったのです。


まずは、我々の今年のアユ釣りは、順調にスタートしました。

鮎という漢字は、魚を占う、と書きますが、今年の鮎釣りはどうやら “吉” と出そうな予感がしてなりません。
久々に、またもう一度アユ釣りに熱中してみようか、などと思ったりもしています。


<岡田さんの釣ったアユだけで、こんな状態なのです。>


野根川について

野根川は、すぐ隣の徳島県にある海部川と同様、全くダムの無い川です。(最後の清流と呼ばれている四万十川には、実は本流に流れ込む支流の、その大半に、ダムがあるのですヨ。水の清らかさでは、同じ高知県の河川なのですが、野根川とは比べ物にならない、と私個人は感じています。)

これまで四国四県のそのほとんどの河川ばかりか、他府県の他の多くの河川へもアユ釣りに出かけましたが、こんなに綺麗で素晴らしい川に、まだ一度も出会った事はありません。水の清らかさにおいては、海部川と同様、おそらく日本一の川でしょう。

以前シリーズで放映されていた、NHKの釣り番組、“日本釣り紀行”の第一回目は、アユ釣りの取材でした。何年かに渡って何度か再放映されていたので、ごらんになった方もいるかとは思いますがー。
その折、知り合いの作家、夢枕獏さんと出演をさせていただく事になり、収録先を野根川にしようか、とも考えていました。
どちらか迷った挙げ句に、結局は海部川での収録になったのですが・・・。

友釣り関係の小説なども書いた彼にとって、いやそればかりか普段から世界各地の“自然”を求めて放浪している彼にとって、川の持つその美しさには、誰よりも敏感に違いありません。

その獏さん曰く、「野根川や海部川は本当に素晴らしい。」−と。

野根川や海部川は、今なお自然の魅力が一杯に溢れている、本当の “最後の清流” なのですから。


<終わり>